「ブッてやがんだよね!」
加山さんは江戸っ子だ。
妻と教員をしている息子の3人暮らしだ。
息子の念願で逗子に引っ越した。
「紹介状書きますよ」
と一応転院を提案した。
にも関わらず通ってくれている。
2時間かけて!
やはり地元へ帰るとホッとするらしい。
高齢者の引っ越しは大変だ。
鬱になる人も少なくない。
快適領域の変化に耐えられないのだ。
「住めば都、エエとこでしょ?」
「悪いヤツはいない。
でもブッてやがんだよね」
「たしかに洒落た人多そうよね。
息子さん、それが欲しかったんでしょ?」
加山さんは苦笑いするしかなかった。
とにかく魚は美味いそうだ。
「それそれ、加点方式よ!」
考え方次第だ。
良い所を見るか悪い所を探すか。
アラ探しをする姿勢は減点方式だ。
帰ってくる可能性があるならいい。
もう家も買ってしまったのだ。
終の住処になるのだ。
アラ探しの余生は寂しすぎる。
「2か月に一回ウチに来たらエエですよ」
これからも加山さんは隔月で帰省する。
下町という田舎ができた。
という加点方式も悪くない。