死亡診断書


週末99歳の患者さんが亡くなった。
老衰だ。

直前まで意識はしっかりしていた。
寝たきりの時間も長かった。
瓜二つの娘もよく介護した。
みなが悔いなきお別れだった。

主治医としては
(もう少しできたのでは)
と思うのは常だが・・・

とにかく死亡診断書を書く必要がある。

ちょっと待て!
診療所を辞めたばかりだ。
診断書の用紙がない!
どこでもらえばいいのか?

本来区役所だが、今日は土曜日だ。
警察に問い合わせた。

「大きい病院でもらえばいいのでは?」

M病院に問い合わせた。
事情を説明して、一部だけ貸してほしい。
そう伝えた。

「担当の者がまだ出勤していない」

との返答だった。
死亡診断書の用紙を貸すか貸さないかを
判断する部署はこの世に存在しない。

病院はこんな感じだ。
病院に問い合わせるのは
あきらめることにした。

どうしようか?

明日から出張で、帰京するのは火曜日だ。
さすがにそこまでは無理だ。

たしか区役所は離婚届や婚姻届は
時間外でも受け付けているはず!


それを思い出して、とにかく向かった。
時間外の窓口で事情を説明した。
2部持ってきてくれた!
書きまちがい用に。

「暑い時期だからもうちょっと下さい」

こちらの意味不明な要求にも対応し、
さらに5部もってきてくれた。

在宅診療を始める上で
初歩的なミスだと反省。
周りの準備にいかに助けられてきたか
痛感した。

とにかくなんとか乗り切った。
好きなことをやっているのだから
すぐに上手くなるだろう。
50直前の転職!
「超楽観主義」でいくしかない。

コロナ対策失敗談


手袋をしたまま用を足した。
手袋をしたままファスナーを上げた。

ファスナーに手袋がはさまった!
手袋は破け、ファスナーに絡まった。
解決しようとするも不自由だ。
両手が手袋のままだからだ。

顔を触らないよう手袋をしている。
感染予防が目的だ。

ゴム手袋は複数回消毒も可能だ。
素手とはやはり勝手が違うことが
「玉に瑕(きず)」だ。

話は変わる。

仏壇がある家が多い。
線香を上げる際、ライターを使う。
ライターの丸いヤスリを回すとき
手袋したままでは不自由だ。

よし、うまく火が着いた!

と思ったら手袋にも着火した。
さっきのアルコール消毒だ!
もう一方の手でもみ消そうと
したそのとき、ハッと気づいた。

こっちも消毒後だ!

着火した手を振り振り、強引に消した。
アルコールがほぼ乾燥していたので
救われた。

実は、これは「実験室アルアル」だ。
実験現場では日常的に火を使う。
実験現場から離れて久しい。
もう一方の手を使わなかったのは
多少「三つ子の魂」だったのだろう。

幸い血圧測定中だったナースと
患者さんには気づかれなかった。

何事もなかったように診療を続ける。
これもプロの仕事・・・
であるわけはない。

祝!コロナ陽性!


「発熱患者を診てくれないんですよ」
看護師から軽く苦情がきた。
自分が在宅診療で廻っている間に
パートで来ている女医さんだ。

パート先で感染リスクを背負いたくない。
大学からもパート先で感染しないよう
指導されているから仕方がない。

雇用契約は昨年末。
コロナ蔓延は勤務が始まってからだ。
気持ちはわかる。
しかし、当院は「コロナ疑い」を
診察すると決めてしまった。

朝のミーティングで不意打ち気味に
女医さんに言った。

「先生、診てもらえない?
ちゃんと防護衣着てね。何かあったら
僕がフォローするから」


女医さんの顔は強ばっていた。
スネられるて辞められる可能性もある。
あきらかに不本意な表情のまま
女医さんはうなずいた。

そして翌々週彼女は引いた・・・

たった数例しか診察しないうちに
コロナ陽性患者を。
こっちは何十例診ているがなかなか
出くわさない。

翌週女医さんに結果を伝えた。

「おめでとう!陽性やったわ」
「ホントですか!?」
「なかなか当り引かへんで!
病初期を診ている医者は少ないで。
この経験は大きいよ、おめでとう!」


女医さんは喜びで上気していた。
これでこそ医者だ!
女医さんは一皮むけた。
若い患者は順調に回復している。
万事良好だ。

患者を診ないことには学べない。
不謹慎かも知れないが、医師の
経験はすべて患者さんのためだ。

手ぐすね引いて待ってる医師には
なかなかコロナが来てくれないが・・・