会話はダンスミュージックだ

早い話が
コール・アンド・レスポンスは
とても大切だ

ということだ。

「忙しい?」
と訊かれるのが苦手だ。

忙しくないからだ。

ただしヒマではない。
やることや予定は多い。
しかし、気ぜわしくはない。
好きでやってるからだ。

なので、質問に対し
「はい、忙しいですね」
と答えると、罪悪感に苛まれる。
シャッターを下ろしてないか?
相手に申し訳なさを感じる。

「いえ、忙しくないです」
と答えてしまうと、
(ヒマではないんやけどもね)
残尿感の如き注釈が湧き出る。

質問する側も挨拶程度の気持ちで
本気の返事を求めていないはず。
そもそも不義理しているのが悪い!

どう答えるのが良いのだろう?
いいお手本が見つかった!
大阪弁の
「儲かりまっか?」
「ボチボチでんな」


”コール・アンド・レスポンス”の
お手本ではないか!

見習うことにしよう。

「ボチボチですね」
を、最高の「間」と「音色」で返す。
そうしよう。

交通事故は悲惨だ

加藤さんは79歳女性。
よくしゃべる元気な人だ。
色んなグループのリーダーを
引き受けている。

加藤さんは先日、自転車運転中に
タクシーと接触事故をした。
転倒し、右手を捻挫した。


タクシーの対応もまずかった。
保険屋の対応もまずかった。
整形外科医の対応もまずかった。
痛みが一向に引かない。

外来で愚痴を延々と聴かされた。
「災難でしたね。でも打撲だから
時間ぐすり。それで済んでよかった」

この程度の励ましが精一杯だ。

加藤さんのグループの人も
大勢当院に来ている。
加藤さんのリーダーシップに
負うところは大きい。

佐伯さんはグループの一員。
来院したときに
「加藤さん大変やったですね」
と言ってみた。

すると
「どうせ話長かったんでしょ。
何で手だったんだろう?
口の骨折ればよかったのに
ってみんなで悪口言ってるの」

と大笑いしていた。

強烈な悪口だ…
もちろん加藤さんの目の前で…

加藤さんは、自らの「受難」を、
大げさに話し、皆から、悪口を
ツッコまれることで乗り越えた。

「下町にうつ病はいない」
研修医の頃、教えられた格言だ。
もちろん例外はある。
しかし、少ないと感じるし、
実際なんとかなっている。

「失敗」や「ブルース」を
軽症のうちに皆で笑い飛ばす。

落語に学ぶことは実に多い。

最強の口ぐせ

「かえって良かった」

最強の口ぐせである。
この口ぐせを持っていない人は

ヤバい。

この言葉をひとたび発する。
どんな悲劇の最中でも
脳が辻褄を合わせる理由を勝手に

探してくれるのだ。

人は出来事を「物語」でしか
記憶できない。
そしてその物語の流れには好みの

傾向があるそうだ。

万人ウケする「型」があり、それは
ハリウッドも使いまくっている。

困難を克服するストーリーだ。

悲嘆にくれる状況にあるときほど
「かえって良かった」が効く。

逆に、それしかない。

恐竜は絶滅した。
恐竜にとっては悲劇だが、人間に
とっては「かえって良かった」

今日、人間がこの世にいるのは、
「かえって良かった」と口ずさんだ

恐竜のお陰かもしれない。

外来は今日もブルースだらけ。
次々に来る患者さんに
「かえって良かった」

というのはとても勇気がいる。

だけど、その都度何らかの
理屈が思いつくのに我ながら驚く。

一休さんさながらに…

それは自分の実力なのではなく、
人類がみな持っているDNAであり、

稽古の賜物だと知っている。

誤解のないように言っておく。
「怖がるな」「悲しむな」とは
全く違う。
恐怖や悲哀の感情は本能だ。

本能を失うと死期が早まる。

「で、その次」の言葉、それが

「かえって良かった」だ。

そんな言葉ごときでは絶対に無理!

たとえそう言われても
「かえって良かった」
で絶対に返せるようになる。