「母ちゃんには内緒だよ」
ご本人は忘れているのだろう。
以前、若気の至りを告白したことを。
40年も前の話。
遊んでしまった。
そしてもらってしまった。
膿が出て汚れた。
「そんなことあったんですか!」
水川さんは冒頭の言葉を発した。
水川さん(70歳)は腹部エコーをした。
前立腺が石灰化していた。
病的でもなく、無視できるレベルだ。
結果を説明する。
結果を説明する。
イタズラ心が働いた。
「心配はいらないんですよ。
これからどうなるわけでもない。でも…
何でこうなったんだろう。心当たりは?」
「えっ?」
「病気もらったりとか。なかった?」
前に聞いているのにトボケた。
もっかい話させたかったからだ。
「昔遊んだことがあるんだよ」
「いつの話?結婚後?」
「そう。だけど40年も前だよ」
「志乃さん(妻)は知らんのでしょ?」
「相手は同級生なんだよ」
「!(絶句)」
「焼けぼっくいってヤツだよ」
「その相手からもらっちゃった?」
「しばらく付き合ってたんだよ。
そしたらうつされたから。しかも、
当時は一本一万円する注射を
一週間打たれたんだぜ。もう参ったよ」
「まあ、背に腹は代えられへんもんね」
「相手もいたからさ、マズいしね」
親指を立てて水川さんはそう言った。
「W不倫?」
衝撃の事実が続出した。
「母ちゃんに内緒だよ」
まさかこのフレーズを再び聴くとは…
10歳年下の奥さんは働き者だ。
性格も明るく、芯が強い。
3度の大病(難病)を乗り越えた。
水川さんはいつも奥さんを労っている。
妻の病気が発覚したとき外来で泣いた。
快復したときも感謝の気持ちで涙した。
贖罪の念は人を優しくするのかも。
とすれば少々の不良も許される…
はずはない。