会話も反射神経


在宅患者の佐々木さん(84歳)は認知症。
おしゃべりなので一見わからない。
ほとんど辻褄が合わないのだが、
会話が成立する。

反射神経が衰えないのだろう。

亡夫とともに「箱」を作っていた。
時計などを入れる箱だ。
昭和の東京五輪では相当稼いだそうだ。
SEIKOから依頼されていた。
職人商売が成り立っていた時代だ。

診察前に、夫の仏壇に線香をあげる。
ライターがない。マッチしかない。
すべて某信用金庫のマッチだ。
さぞかし長いつきあいなのだろう。

「全然迎えに来てくれないわよ」
と野沢さん。
「あっちにもパチンコあるんかな?」
亡夫の趣味はパチンコだった。

聴診器を当てようとする。

「服の上からでいいの?」
「これ、よう聴こえる聴診器なんよ」
「自前?」
「買うてもろたんですよ、診療所に!」
「いくらでも落とせるもんね(経費で)」

こういう返しに商売人を感じる。
誰が彼女を認知症と思うだろうか?
でも定期診療していればわかる。
毎回同じことを言うからだ。
「先生髪の毛少なくなったね」