林さんは夫と鮨屋を営んでいた。
3年前に夫が死去し、店を閉めた。
林さんの落ち込みは激しく、
外来で涙することも多々あった。
自宅兼店舗に住んでいた林さん。
古い家での一人暮らしは不便だ。
子どもたちの提案で引っ越した。
診療所のそばのマンションへ。
勝手が違うので、戸惑った。
薬を紛失することも多くなった。
あきらかに認知症が始まった。
何度も診療所に来る。
ちょっと前に来たことを忘れる。
診療所で薬を飲ませることに。
事務員が独断で行った配慮だ。
必然的に会話も増える。
すると林さんに笑顔が増えた。
すっかり元気になった林さん。
昨日の外来での会話だ。
「快適?」
「ええ、みんな親切ですよ。
前の家もようやく売れたみたい」
「よかったじゃない!」
「宿泊施設になってたわよ」
「外国人多いしイイじゃん」
「今度泊まってやろうかなって」
「オモロイやん!」
「近所から言われるのよ。
今度は何始めたの?って。
だから、宿泊所始めたのよ、
今度泊まりに来なって」
もともとこういう人だ。
84歳。
簡単にはくたばらない。